近年、株式投資や資産形成に関心を持つ方々の間で、銀行株が再び注目を集めています。特に三菱UFJ、三井住友、みずほといった三大メガバンクを中心に、増配のニュースが相次いでいる点に気づいている方も多いのではないでしょうか。
長らく低成長・低収益の代表格と見なされてきた銀行セクターですが、ここにきて明らかな変化が起きています。その背景にあるのが、日本銀行の金融政策転換、いわゆる金利正常化です。
本記事では、なぜ銀行株の増配が続いているのか、金利正常化によって何が構造的に変わったのかを、投資家目線で丁寧に紐解いていきます。FIREや長期の資産形成を意識する方にとって、銀行株が持つ意味を再考するきっかけになれば幸いです。

金利正常化とは何か|日本銀行の政策転換の意味
まずは、今回のテーマの核となる金利正常化について整理しておきましょう。
日本では2016年以降、マイナス金利政策が導入され、政策金利は▲0.1%という歴史的な低水準に抑えられてきました。この政策は物価安定を目的としたものでしたが、同時に銀行の収益力を大きく削ぐ要因でもありました。
転機となったのが2024年です。日本銀行はマイナス金利を解除し、政策金利を0~0.1%へ引き上げました。その後も段階的な利上げが続き、
- 2024年7月:0.25%
- 2025年:0.5%
- 2025年12月時点:次回0.75%が視野
と、金利のある世界への回帰が現実のものとなっています。これは1990年代半ば以来、約30年ぶりの水準です。
背景には、持続的な物価上昇と賃上げの定着があります。日銀は慎重な姿勢を保ちながらも、金融緩和の正常化を明確な方向性として示しています。
銀行の収益構造と金利の深い関係
銀行ビジネスの本質は「利ザヤ」
銀行の収益の根幹は、預金金利と貸出金利の差、いわゆる利ザヤです。
預かったお金を企業や個人に貸し出し、その金利差から利益を生み出す。この極めてシンプルなモデルが、銀行業の本質と言えます。
しかし、低金利・マイナス金利時代には、この利ザヤが極端に圧縮されました。預金金利はほぼゼロに張り付いた一方で、貸出金利も上げられず、本業で稼げない状態が続いていたのです。
その結果、銀行は手数料ビジネスや海外事業、証券運用などに活路を求めざるを得ませんでした。
金利上昇で何が変わったのか
金利正常化が進むことで、銀行の収益構造には明確な変化が生まれています。
政策金利が上昇すると、短期金利に連動して貸出金利は比較的早く上がります。一方で、預金金利の引き上げは緩やかです。この「時間差」が、利ザヤの拡大をもたらします。
つまり、同じビジネスモデルのまま、収益力が自然と回復するという構造的な追い風が吹いているのです。
金利正常化がもたらした業績回復と増配の実態
2025年に入って以降、銀行の決算にはその効果がはっきりと表れています。
2025年4~9月期の決算では、主要銀行グループの純利益合計が前年同期比で約16%増加し、過去最高水準を更新しました。要因の中心は、国内金利上昇による資金利益の増加です。
三大メガバンクの配当推移
以下は、三大メガバンクの1株当たり年間配当金の推移です。
| 決算期 | 三菱UFJフィナンシャル・グループ | 三井住友フィナンシャルグループ | みずほフィナンシャルグループ |
|---|---|---|---|
| 2023年3月期 | 32円 | 80円 | 85円 |
| 2024年3月期 | 41円 | 90円 | 105円 |
| 2025年3月期 | 64円 | 122円 | 140円 |
| 2026年3月期(予想) | 74円(増配) | 157円(大幅増配) | 145円(増配) |
三菱UFJは連続増配を継続し、三井住友は業績上方修正に伴う大幅増配を実施、みずほも連続増配を維持しています。配当性向はおおむね40%前後と、無理のない株主還元が続いている点も注目すべきポイントです。
また、自社株買いも積極的に行われており、1株当たり利益(EPS)の押し上げにも寄与しています。
増配は一時的か、それとも構造的か
投資家として気になるのは、この増配は続くのかという点でしょう。
結論から言えば、今回の増配は一時的な好況によるものではなく、構造的な改善の結果と考えられます。理由は明確で、日銀の金融政策が単なる調整ではなく、正常化という長期的な方向性を伴っているからです。
今後、政策金利が1%近辺まで上昇する可能性も指摘されています。もちろん急激な利上げはリスク要因になりますが、緩やかな金利上昇が続く限り、銀行の収益環境は安定的に改善しやすい状況が続くでしょう。
FIRE・長期投資の視点で見る銀行株の意味
銀行株の魅力は、高配当だけではありません。
安定したキャッシュフローと、再投資による複利効果を組み合わせやすい点にあります。
FIREを目指す方にとって、銀行株は次のような役割を果たします。
- 成長株中心のポートフォリオに安定感を加える
- 定期的な配当収入で心理的な余裕を生む
- 配当再投資による資産成長の土台になる
一方で、金利上昇局面では債券含み損や貸出需要減少といったリスクも存在します。そのため、特定の銘柄に集中せず、分散投資を意識する姿勢は欠かせません。
まとめ|金利正常化が開いた銀行株の新しい評価軸
銀行株の増配が止まらない理由は、金利正常化によって本業が蘇ったことにあります。
長年続いた低金利という逆風が解消され、利ザヤが拡大し、安定した利益成長が可能になった。その成果が、着実に株主へ還元されているのです。
この変化は短期的なトレンドではなく、構造的なものです。だからこそ、銀行株は今、再評価に値する存在になっています。
資産形成において大切なのは、派手なテーマに飛びつくことではなく、環境の変化を正しく理解し、長く付き合える資産を選ぶことです。
金利のある世界が戻ってきた今、銀行株は投資家に新しい視点と可能性を示してくれているのではないでしょうか。
関連記事

