海運株と聞くと、市況次第で業績が激しく振れる、好不況の波が大きいといったイメージを持つ投資家は多いと思います。
商船三井(9104)も例外ではありません。しかし直近の決算や事業構造を丹念に見ていくと、単なる景気循環株として片付けるには惜しい企業像が浮かび上がります。
本記事では、商船三井の事業内容、最新業績、財務状況、配当推移を整理しつつ、長期投資の視点から投資価値があるのかを考察します。

商船三井の事業概要
グローバル物流を支える「多角化海運」
商船三井の創業は1884年。130年以上の歴史を持つ日本を代表する海運会社です。
現在は約935隻という世界最大級の船隊を保有し、資源・エネルギーから消費財、さらには不動産やクルーズ事業まで展開する総合物流企業へと進化しています。
主な事業セグメント
| セグメント | 内容・特徴 |
|---|---|
| ドライバルク事業 | 鉄鉱石・石炭・穀物など。長期契約比率が高く安定収益 |
| エネルギー事業 | 原油タンカー、LNG船、FPSO、洋上風力。LNG船は世界トップクラス |
| 製品輸送事業 | コンテナ船(ONE)、自動車船。自動車船は比較的安定 |
| ウェルビーイングライフ事業 | 不動産、フェリー、RORO船、クルーズ |
| 関連事業 | 曳船、商社機能など |
特筆すべきはエネルギー事業の存在感です。
2025年3月末時点の船隊構成では、LNG船・油送船などエネルギー関連が全体の約半分を占めており、脱炭素社会への移行を背景に、長期的な成長余地を秘めています。
この多角化こそが、海運サイクルの上下を和らげる商船三井の最大の強みです。
最新決算から見る業績動向
2026年3月期 中間決算のポイント
2026年3月期中間決算は、コンテナ船事業の大幅減益が響き、減収減益となりました。
| 項目 | 実績 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 8,697億円 | ▲3.4% |
| 営業利益 | 718億円 | ▲19.6% |
| 経常利益 | 1,146億円 | ▲54.3% |
| 中間純利益 | 1,162億円 | ▲53.3% |
減益の主因は、
・コンテナ船市況の悪化
・ドライバルク事業における減価償却費増加
一方で、LNG・エタン船を中心としたエネルギー事業は増益を確保しています。
この明暗が、商船三井の事業ポートフォリオの特徴を端的に示しています。
財務状況とキャッシュフロー
成長投資の裏側にある課題
貸借対照表を見ると、積極投資の影響が数字に表れています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 総資産 | 5兆3,975億円(前期末比+4,130億円) |
| 負債 | 2兆7,775億円(短期借入金増加) |
| 純資産 | 2兆6,199億円(為替影響で減少) |
| 自己資本比率 | 47.9%(▲6.0pt) |
営業キャッシュフローは増加している一方、投資キャッシュフローは大幅な支出超。
LNG船や洋上風力といった将来収益を見据えた投資が続いており、短期的には財務指標の悪化が目立ちます。
収益性・安定性・成長性の評価
数字から見た商船三井の現在地
収益性
過去12四半期で改善傾向が続いています。
ROE16.88%、ROAも高水準を維持しており、海運業としては優秀な収益力です。
安定性
自己資本比率は30%を大きく上回るものの、低下傾向は否めません。
有利子負債の増加とEPSの振れ幅の大きさは、注意点と言えるでしょう。
成長性
売上高・EPSともに前年同期比で増加基調。
特にエネルギー事業が中長期の成長ドライバーとして機能しています。
配当金推移と株主還元
減配してもなお高水準
| 年度 | 年間配当 |
|---|---|
| 2022年 | 400円 |
| 2023年 | 560円 |
| 2024年 | 220円 |
| 2025年 | 360円 |
| 2026年 | 200円(予想) |
2026年3月期の配当予想は年間200円。
株価4,575円ベースで利回り4.37%と、減配後でも依然として魅力的な水準です。
商船三井は配当性向よりも業績連動型の柔軟な還元を重視する企業。
高配当を固定収入と見なすより、景気循環込みで受け取る姿勢が適しています。
株価チャート

商船三井の株価が2025年に入ってから緩やかに下落している背景には、コンテナ船市況の正常化と減益・減配見通しを先取りした調整があります。成長投資による財務指標の変化も重石となりましたが、事業基盤が崩れたわけではなく、過度な期待が修正される過程と見るのが自然でしょう。
投資価値の考察
割安か、それとも妥当か
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| PER | 8.76倍 |
| PBR | 0.61倍 |
| ROE | 16.88% |
| 自己資本比率 | 53.9% |
PBR1倍割れは、市場が将来の不確実性を強く織り込んでいる証拠です。
一方で、脱炭素投資やLNG船の世界シェアを考慮すると、長期視点では過小評価の余地も感じられます。
短期ではコンテナ市況に左右されますが、10年単位で見ればサイクルを越える企業体質へと変わりつつあるのが、現在の商船三井です。
いつ・どんなスタンスで持つ株か
商船三井を評価するうえで重要なのは、いつ、どう持つかというスタンスです。
この銘柄は、短期の業績予想や来期の配当だけで判断すると、どうしても評価がブレやすくなります。
商船三井が本領を発揮するのは、市況が悪化し、減益・減配が意識されている局面です。
コンテナ運賃が下がり、ニュースが悲観的になると株価は先に織り込みに動きます。一方で、LNG船を中心とした長期契約収益や、エネルギー事業のキャッシュフローはすぐには崩れません。この実態と株価のズレが、長期投資家にとっての入り口になります。
逆に、
・海運市況が好調
・過去最高益、過去最高配当が話題
こうした局面では、すでに期待は株価に反映されがちです。LNG船や海洋事業の契約年数と稼働状況は、数年先の利益を先取りするので、エネルギー事業の受注残と稼働率は今後もチェックポイントの一つです。
まとめ
変動の海を航海するための一銘柄
商船三井は、事業の多角化とエネルギー分野への先行投資、高水準の配当還元を武器に、海運業の宿命である市況変動と向き合っています。
決して万人向けの安定株ではありませんが、変動を受け入れ、配当を再投資できる投資家にとっては、資産形成の一翼を担う存在になり得るでしょう。