株式投資をしていると、必ずと言っていいほど目にする指標がROE(自己資本利益率)です。
ROEは高いほど優良企業、最低でも10%以上は欲しい。こうした言説は、投資界隈ではもはや常識のように語られています。
しかし、近年ではROEが高い=投資価値が高いとは必ずしも言えない場面も増えています。
本記事では、ROEは高ければいいわけではない理由を整理しつつ、実践的にどう使えば判断を誤らないのかを解説します。

ROEとは何か|まずは基本を整理する
ROE(Return on Equity)は、以下の式で計算されます。
ROE=当期純利益 ÷ 自己資本
自己資本に対して、どれだけ効率よく利益を生み出しているかを見る指標です。
経営効率や資本の使い方を測るうえで有用なのは間違いありません。
特に日本では、コーポレートガバナンス改革の流れもあり、ROE8%以上・10%以上を目標に掲げる企業が増えてきました。
ここまでは、教科書通りの話です。問題は、ROEの数字の中身を見ないまま判断してしまうことにあります。
ROEが高く見える3つの理由|必ずしも良いとは限らない
① 借金を増やすだけでROEは上がる
ROEは自己資本が分母です。つまり、借入を増やして自己資本を圧縮すれば、ROEは簡単に上がります。
これは財務レバレッジによる効果ですが、同時にリスクも高まります。
金利上昇局面や景気後退時には、利益が急減しやすくなります。
高ROEの裏に、過度なレバレッジ経営が隠れていないかは必ず確認すべきポイントです。
② 自社株買いで“見かけ上”ROEが上がる
近年の日本企業では、自社株買いが活発です。自社株買いは株主還元として評価される一方、自己資本を減らす行為でもあります。
その結果、利益が横ばいでもROEは上昇します。
これは経営効率が改善したわけではなく、分母を小さくしただけのROE上昇であるケースも少なくありません。
③ 一時的な利益でROEが跳ね上がる
以下のような要因でも、ROEは一時的に高くなります。
- 不動産売却などの特別利益
- 為替差益
- 補助金・助成金の影響
こうした利益は再現性が低く、持続性がありません。それでもROEだけを見ると、優良企業に見えてしまうことがあります。
ここまでの内容を整理するために、ROEが高い企業と低めでも堅実な企業の違いを、簡単に比較してみましょう。
ROEが高い企業・低い企業の比較例
| 観点 | ROEが高いが注意が必要な企業 | ROEは低めだが堅実な企業 |
|---|---|---|
| 財務構造 | 借入が多く自己資本が薄い | 自己資本比率が高い |
| 利益の質 | 一時的・市況依存が強い | 本業収益が安定 |
| 成長投資 | 抑制的 | 設備・人材に継続投資 |
| 長期視点 | 変動が大きい | 緩やかだが持続的 |
ROEが高い企業は一見すると効率的に利益を出しているように見えますが、その内訳を見ると、借入によって自己資本を薄くし、数字を押し上げているケースも少なくありません。この場合、景気や金利の変化に弱く、利益の振れ幅が大きくなりがちです。短期的には株価が評価されやすい一方で、環境が変わった瞬間にROEが急低下するリスクも抱えています。
一方で、ROEは低めでも堅実な企業は、自己資本比率が高く、本業から安定して利益を生み出しているのが特徴です。設備投資や人材投資を継続しながら、時間をかけて競争力を積み上げていくため、ROEの伸びは緩やかでも、長期的には利益とキャッシュフローが積み上がっていきます。
FIREや長期の資産形成を考える場合、重要なのは一時的に数字が良い企業よりも、環境が変わっても生き残れる企業かどうかです。この表は、ROEの水準だけで企業を判断する危うさと、数字の裏側を見る視点の大切さを示しています。
ROEは、高いか低いかで白黒をつける指標ではありません。
どのような経営の結果として、そのROEが生まれているのかを読み取るための材料として使うことで、投資判断の質は大きく変わってきます。
2026年の視点|ROE信仰が通用しにくくなった理由
2026年現在、ROEをそのまま信じにくくなっている背景には、次の要因があります。
- 金利のある世界への回帰
- インフレ環境下でのコスト増
- 自社株買い偏重への市場の目線
- 稼ぐ力より続ける力が重視され始めたこと
特にFIREや長期投資を目指す人にとって重要なのは、短期的にROEが高いかどうかではなく、10年後も利益を出せるかです。
ROEをどう使うべきか|本当に見るべき組み合わせ
ROEは、以下の指標とセットで見ることで価値が上がります。
- ROIC(投下資本利益率)
- 営業利益率
- 自己資本比率
- フリーキャッシュフロー
- 利益の推移(5年・10年)
ROEが高いから買うのではなく、なぜこのROE水準なのかを説明できるかが重要になります。
ROEを投資判断に活かすための実践戦略|数字の分解から始める
ROEを正しく使うためには、高い・低いという評価から一歩進み、そのROEがどの要素で成り立っているのかを分解して考える視点が欠かせません。
ここで有効なのが、デュポン分析です。
デュポン分析でROEを分解するという考え方
ROEは、以下の3要素に分解できます。
ROE = 利益率 × 資産回転率 × 財務レバレッジ
この分解によって、次のような企業の性質が見えてきます。
- 利益率が高い → 価格決定力や付加価値が強い
- 資産回転率が高い → ビジネスモデルが効率的
- レバレッジが高い → 借入依存でROEを押し上げている可能性
同じROE15%でも、本業の競争力による15%と財務操作による15%では、長期投資の価値はまったく異なります。
デュポン分析によって、利益率が高いのか、回転率が高いのか、レバレッジが高いのかを確認し、ROEの裏側を見てみることも一案です。レバレッジが異常に高い場合は(特に金利上昇局面では)要注意です。
なぜこの分解が投資判断で超重要なのか
同じROE15%の企業Aと企業Bがいたとします。
- 企業A:利益率8% × 回転率1.5回 × レバレッジ1.25倍 → ROE15%
→ 利益率が高く、レバレッジは控えめ。質の高いROE。 - 企業B:利益率3% × 回転率1.2回 × レバレッジ4.2倍 → ROE15%
→ 借金にかなり頼っている。金利が上がると一気に苦しくなる可能性大。
見た目のROEは同じでも、持続可能性が全然違います。デュポン分析をすると、この違いが一目瞭然になります。
ROA・ROICと併用して見えてくる本当の実力
ROEの弱点は、レバレッジの影響を強く受ける点です。その補完として有効なのが、ROAやROICとの併用も一案です。
- ROA(総資産利益率)
→ 借入の影響を排除し、企業全体の稼ぐ力を測れる - ROIC(投下資本利益率)
→ 税後利益ベースで、事業の本質的な効率性を評価できる
実際、日本証券アナリスト協会の調査(2024年)では、ROE15%以上かつROA8%以上の企業群は、市場平均を上回るリターンを示したという報告もあります。
ここから分かるのは、ROEが高いこと自体よりも、他の効率指標と矛盾していないことの重要性です。
ROE関連指標の比較|クロスチェックのための視点
| 指標 | 計算式 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ROE | 純利益 ÷ 自己資本 | 資本効率を把握しやすい | レバレッジ依存に注意 |
| ROA | 純利益 ÷ 総資産 | 企業全体の効率性を評価 | 成長投資企業は低く出やすい |
| ROIC | NOPAT ÷ 投下資本 | 事業の本質的収益力を測れる | 計算がやや複雑 |
| D/Eレシオ | 負債 ÷ 自己資本 | 財務健全性を確認できる | 業種差を考慮する必要あり |
ROEを単独で信じるのではなく、複数指標で整合性を見ることが、投資判断の精度を大きく高めます。ROEを単独で使うのではなく、複数の指標をクロスチェックすることで、より正確な企業評価が可能になります。
まとめ|ROEは“答え”ではなく“問い”である
ROEは、非常に優れた指標です。
しかし、それは結論ではなく、思考の出発点に過ぎません。
ROEが高い企業を見たとき、なぜ高いのか、それは持続可能かと一歩踏み込める投資家は、短期の数字に振り回されにくくなります。
FIREや資産形成は、派手さよりも再現性がものを言う世界です。ROEを信じるのではなく、使いこなす視点を持つことが、投資では一層重要になっていくでしょう。
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