景気は循環する。その事実を理解していても、どのセクターに資金が向かうのかを事前に読み切るのは決して簡単ではありません。特に、不況入り前は指数全体がまだ堅調に見えるため、投資家の判断が遅れがちになります。
しかし、過去50年のデータを紐解くと、不況前と景気後退中で明確に “勝ちやすいセクター” が異なることが見えてきます。
この記事では、
- 不況入り前に上がりやすいセクター
- 景気後退時に強いセクター
- 日米の過去50年の主要な不況時データ比較
- 2025年の投資家がどう活かすべきか
を解説していきます。

不況入り前に起きる変化:市場は“守り”へ移行している
セクターローテーションが始まるタイミング
景気のピークアウトが近づくと、企業業績の鈍化、イールドカーブの逆転、製造業PMIの縮小などのマクロ指標に変化が現れます。この時期、指数そのものはまだ横ばい〜堅調でも、セクター間の資金移動が加速します。
最初に勢いが落ち始めるのは、製造業、金融、素材などの景気敏感株。その一方で、消費必需品やヘルスケアといったディフェンシブ系が上向き始めます。
過去の典型例
たとえば2007年。サブプライム問題の裏で、金融株はすでに-10%下落している一方、消費必需品は+5%のリターンでS&P500をアウトパフォームしていました。日本でも同様で、1990年のバブル崩壊前、医薬品セクターは+8%上昇していたという記録があります。
結論:不況入り前は「早めのディフェンシブシフト」が最も効果的
景気後退の本番:ディフェンシブセクターが最も強くなる理由
なぜディフェンシブが勝つのか
景気が後退入りすると、多くの企業が売上減少に直面し、市場全体は急速にリスクオフへ。しかし、生活の基盤を支えるセクターである、公益事業、通信、必需品は需要が落ちないため、市場平均より下落が小さい、時にはプラスになることさえあります。
代表的な強いセクター
- 公益事業(Utilities)
電力・ガスは景気関係なし。配当も高い。 - 通信(Telecommunications)
スマホ・ネットは生活必需インフラ化。 - ヘルスケア(Healthcare)
不況でも医薬品需要は減らない。
実際のデータ例
- 2020年のCOVIDショック
S&P500が-34%下落した局面で、公益は逆に+2%の微増。ウォルマート(必需品)は+20%のラリーを記録。 - 2008年リーマンショック(日本)
TOPIX -42%に対し、電力・ガスセクターは-15%で踏みとどまりました。
まとめ:後退時は「生活インフラ」ほど強い。配当も安定し、暴落局面で真価を発揮する。
過去50年の比較表:不況入り前と後退時で勝つセクターは違う
以下は、過去50年の主要な景気後退を対象に「不況入り前3〜6ヶ月」と「後退期本番」のトップセクターをまとめた表です。
過去50年の主要後退期と強かったセクター一覧
| 後退期 | 不況入り前トップ | 後退期トップ | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 1973-75(オイルショック) | エネルギー(+12%) | エネルギー(+18%) | インフレ期の原油高で例外的に強い |
| 1980-82(二重後退) | 消費必需品(+7%) | ヘルスケア(+10%) | 高金利下でディフェンシブ回帰 |
| 1990-91(湾岸危機) | ヘルスケア(+9%) | 公益事業(+5%) | 日本も電力株が堅調 |
| 2001(ITバブル崩壊) | 消費必需品(+4%) | 消費必需品(+8%) | ドットコム崩壊で“食品・飲料”が逃げ場 |
| 2007-09(金融危機) | ヘルスケア(+6%) | 公益・通信(+12%) | 安定配当株が光る |
| 2020(コロナショック) | 通信(+11%) | ヘルスケア・テック(+15%) | リモート需要爆発 |
この表を見ると、「不況入り前」と「後退期本番」で明確に資金の向かう先が変わることが分かります。
まず、不況入り前は景気がまだ持ちこたえているため、急激なリスクオフは起きません。ですが、守りに寄せたい投資家 が増え始めるため、消費必需品・ヘルスケアといった景気に影響されにくいセクターから上昇が始まります。
一方、景気後退が宣言されると、市場は一気にリスクオフへ。事業の安定性と配当利回りが評価されやすくなり、公益事業・通信・デフェンシブETFといった生活インフラ系が最も強くなります。具体的なパターンを整理すると、次の3つが読み取れます。
① インフレ期だけ “エネルギー” が主役になる(1970年代)
1970年代はオイルショックで原油価格が急騰。エネルギーが不況前・後退期どちらでも最強となった唯一の時期です。
ただしこれは特殊ケースで、過去50年の中で “インフレ × 供給ショック” が重なった時に限られます。
② 通常の不況は “必需品 → 公益・通信” の黄金リレー
1980年代以降のほとんどの不況で共通する典型的な流れがこれです。
- 不況前に必需品・ヘルスケアが先に上がる
- 後退期に入ると公益・通信が最強になる
理由はシンプルで、
- 必需品 → 景気減速期でも売上維持
- 公益・通信 → 後退期でも固定収入&高配当
という構造的な強さがあるためです。
③ ITバブル崩壊・金融危機では“食品・医薬品”が逃げ場になった
2001年(ITバブル崩壊)と2007〜09年(リーマンショック)では、テックと金融が崩れたことで、
- 食品・飲料(必需品)
- 医薬品(ヘルスケア)
が明確に資金の逃げ場になりました。
特に2008年は、公益・通信が+12%と圧倒的に強く、典型的な不況に強い株の教科書のような動きを見せています。
④ コロナ(2020年)は異質で、通信&テックが躍進
パンデミック不況は、過去の典型パターンとは少し違います。
- 在宅需要
- オンライン化
- 医療需要の急増
が重なり、通信(不況前) → ヘルスケア+テック(後退期)という、情報セクターが主役になる特異なカーブを描きました。
▼まとめ:50年で分かる“不況前”と“後退期”のセクターの違い
- 不況前は売上が落ちにくいセクター
→ 消費必需品・ヘルスケアが優位 - 後退期は固定収益+高配当
→ 公益・通信が安定して強い - 特殊ケース(インフレ期・パンデミック)では例外が発生する
つまり、不況のサイクルでは守りのディフェンシブでも、強くなるタイミングが違うという点を理解しておくことが重要です。
日本株投資家の視点:円安・内需ディフェンシブの活かし方
アメリカのデータが中心ですが、日本株にも共通点があります。
- 1990年代失われた10年 → 医薬品セクターが+20%超のクッション
- 2008年リーマン後 → 食品セクターが指数の半分以上の下落を吸収
2025年現在の環境(円安・インフレ・景気鈍化)を踏まえると、投資家としては内需ディフェンシブを20〜30%組み込むのが王道戦略です。例としては、武田薬品(ヘルスケア)、キッコーマン、ニチレイ(食品)、関西電力・東京ガス(公益)といった銘柄が上げられます。TOPIXのディフェンシブ系ETFを取り入れるのも有効です。
FIRE・長期投資家が取るべき実践アクション
不況は資産形成の敵ではありません。むしろ、ポートフォリオの再構築チャンスです。
不況が近づいてきたら:
不況が近づいてきたと判断した段階では、ポートフォリオの重心の意向を考慮しておくことが大切です。まず、値動きが大きく業績も景気の影響を受けやすい景気敏感株の比率を10〜20%ほど圧縮し、過度なリスクを抱えない体制に整えます。その一方で、売上が景気に左右されにくい消費必需品やヘルスケアといったディフェンシブセクターを意識的に積み増し、下落局面でも一定の収益源を確保できるようにします。
さらに、相場が大きく崩れたときの待ち伏せ買いに備えて、キャッシュ比率も普段より少し厚めにしておくことで、次の投資チャンスに柔軟に動ける余裕が生まれます。こうした早めのポジション調整が、不況期のダメージを最小限に抑えつつ、逆張りのチャンスをつかむ基盤になります。
景気後退に入ったら:
景気後退が実際に始まった局面では、ポートフォリオの主役をより明確にディフェンシブへと寄せていきます。具体的には、公益・通信・食品といった生活インフラ系のセクターを中心に据え、収益が安定しやすい銘柄の比率を高めることで、相場全体が弱含む中でもブレにくい土台を確保します。また、この時期は株価が割安になりやすいため、受け取った配当金を積極的に再投資することで複利効果を最大化し、長期の資産成長につなげやすくなります。
さらに、後退期特有の大きな値動きは恐れるものではなく、むしろ魅力的な買い増しのチャンスです。ボラティリティを逆に味方にし、良質なディフェンシブ株を段階的に拾っていく姿勢が、次の景気回復期に向けた大きなリターンの源泉になります。2020年の下落局面で、ヘルスケアETF(VHT等)を保有していた投資家は、市場平均が落ちる中で+10%のリターンを確保できた例もあります。
まとめ:50年の歴史が示す王道パターンと備え
不況入り前は、予兆のディフェンシブ→消費必需品&ヘルスケア
景気後退の本番は、基盤のディフェンシブ→公益・通信・食料品
この流れは過去50年ほぼ共通しており、インフレ期のみエネルギーが例外的に躍進するというスパイスが加わります。
不透明な市場だからこそ、この歴史的傾向を踏まえてポートフォリオを調整しておくことで、FIRE・長期資産形成はより確実に、より安心感をもって進められます。
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