株式投資を通じて配当金を得ることは、多くの投資家にとって魅力的な選択肢です。特にFIRE(Financial Independence, Retire Early)や早期リタイアを目指す方にとって、定期的に入ってくる配当金は労働に縛られない生活への実感を与えてくれます。
新NISA制度の拡充により、配当金を非課税で受け取れる環境が整ったことも、配当投資への追い風となっています。
しかし一方で、配当金が増えてきたから、もう安心だと考えてしまうことには注意が必要です。年現在の日本経済は、インフレ圧力の高まり、金利環境の変化、企業収益の不確実性など、見落としがちなリスクを多く抱えています。
本記事では、配当金が増えてもなお安心しきれない理由を整理し、FIRE志向の投資家が持つべき視点について掘り下げていきます。

配当金の魅力と、その裏にある前提条件
配当金は、企業が生み出した利益の一部を株主に還元する仕組みです。高配当株であれば、利回り3%〜5%、中には7%を超える銘柄も存在し、預金金利と比べると非常に魅力的に映ります。
2025年12月時点の日経平均ベースの予想配当利回りは約2.1%とされており、インカムゲインを重視する投資家にとっては、一定の安心材料といえるでしょう。
ただし、この配当が出ているという事実は、あくまで今の環境が続くことを前提としています。経済や企業業績は常に変化しており、配当金は固定給ではありません。この前提を見落とすと、思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。
理由① インフレによって配当金の実質価値は目減りする
配当金が前年より増えていても、物価上昇率を考慮しなければ、生活のゆとりが本当に増えたとは言えません。
2025年時点の日本では、コアCPIが前年比2〜3%台で推移しており、食料品やエネルギー価格を中心に、生活コストは着実に上昇しています。
例えば、年間配当金が10万円増えたとしても、インフレ率が3%であれば、その実質的な価値は7万円程度に目減りします。FIRE後の生活では、こうした実質購買力の低下がじわじわと効いてきます。
【インフレ率と配当利回りの比較(参考)】
| 年 | インフレ率(%) | 平均配当利回り(%) | 実質利回り(%) |
|---|---|---|---|
| 2022 | 2.5 | 2.0 | -0.5 |
| 2023 | 3.2 | 2.1 | -1.1 |
| 2024 | 2.8 | 2.2 | -0.6 |
| 2025(見通し) | 2.4 | 2.1 | -0.3 |
このように、名目上は配当を受け取っていても、実質的には資産価値が目減りしている可能性がある点は、冷静に受け止める必要があります。
理由② 配当金は「確定収入」ではなく、減配リスクを伴う
配当金は企業業績に大きく左右されます。景気後退、業界構造の変化、突発的な不祥事などが起これば、減配や無配に転じることも珍しくありません。
実際、2020年のコロナ禍では、多くの優良企業が配当を見直しました。
高配当株ほど、利益が少し落ちただけで配当維持が難しくなるケースもあります。FIRE後の生活資金を配当に強く依存している場合、これは精神的にも大きなリスクとなります。
これまで減配がなかったという実績は重要ですが、それが将来を保証するものではない点を忘れてはいけません。
理由③ 税制優遇は永続するとは限らない
新NISAによって配当金が非課税で受け取れる環境は、非常に魅力的です。ただし、税制は政治・財政状況によって変更される可能性があります。
過去を振り返っても、制度の名称や内容が変わってきた歴史があり、今後もずっと同じだと考えるのは楽観的すぎるかもしれません。
また、海外株や海外ETFでは、現地課税(米国での10%源泉税など)が避けられない場合もあり、想定より手取りが少なくなるケースもあります。配当金戦略を税制だけに依存するのではなく、柔軟な出口戦略を考えておくことが重要です。
理由④ 成長機会を逃す「機会費用」が発生する
高配当株は成熟企業が多く、株価成長の余地が限定的な場合があります。その結果、市場全体や成長株と比べて、長期的な資産増加が鈍化することがあります。
配当を受け取る安心感と引き換えに、複利による資産拡大のチャンスを逃している可能性があるのです。
特にFIREを目指す現役世代にとっては、今の安心と将来の成長のバランスをどう取るかが重要なテーマになります。配当金を再投資するかどうかによって、10年後、20年後の資産額には大きな差が生まれます。
配当金に安心しきらないための現実的な対策
配当金の弱点を理解したうえで、以下のような視点を持つことが有効です。
配当株だけに偏らず、インデックスファンドや成長資産を組み合わせることで、インフレ耐性と成長性を補完できます。
また、定期的にポートフォリオを見直し、減配リスクや業績悪化の兆候を確認する習慣も重要です。
配当金は生活を支える柱の一つとして活用しつつ、過度に依存しない構造を作ることが、長期的な安心につながります。
結論:配当金は安心材料だが、最終的な答えではない
配当金が増えても安心しきれない理由は、インフレ、減配リスク、税制の不確実性、そして成長機会の喪失にあります。
配当金は強力な武器ですが、それだけで完結する投資戦略は存在しません。
2025年の不透明な経済環境だからこそ、配当金を目的ではなく手段として捉え、全体の資産設計の中で位置づける視点が求められます。
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