人生論

FIREは本当に目指すべき?倫理学の論文が示す「熟考されたFIRE」の価値

FIREを目指す人の多くは、いくら貯めれば仕事を辞められるのか、年間いくら使えるのかといった数字に目が向きがちです。もちろん、それはFIREにおいて欠かせない要素です。

しかし、この論文には、それとは少し違った視点が示されていました。

今回紹介するのは、Journal of Business Ethicsに掲載された論文 『The Ethics of FIRE』(Conrad Heilmann & Marta Szymanowska, 2025)です。

この論文は、FIREを資産形成の方法ではなく、人生の価値観を見つめ直すための手段として捉えています。

私自身、FIREを目指して資産形成を続けていますが、この考え方には大きく共感します。

FIREはお金を貯める仕組みではなく、人生設計の考え方

論文では、FIREを非常にシンプルに定義しています。

若いうちに多く働き、貯蓄率を高め、できるだけ早く経済的自立(Financial Independence)を達成し、早期リタイアという選択肢を手に入れる。

リーンFIREやファットFIREなど、さまざまなスタイルがありますが、本質は共通しています。

それは、お金と時間の使い方を前倒しで設計するライフプランだということです。

ここまでは、多くの人がイメージするFIREと大きく変わらないでしょう。

しかし、この論文が興味深いのは、その先にある考え方です。

FIREには「熟慮の価値」がある

論文では、FIREには「Deliberative Value(熟慮的価値)」があると述べられています。

少し難しい言葉ですが、簡単に言えば、

「数字を計算〈FIREの計算(年収・支出・必要資産・引き出し率など)〉することで、自分が本当に大切にしたいものが見えてくる」

ということです。

例えば、毎年50万円の旅行費を削ればFIREが2年早まると分かったとします。

そのとき、それでも旅行に行きたいと思うなら、あなたにとって旅行は資産以上の価値があるのかもしれません。

逆に、2年早く自由になれるなら旅行は我慢できると思うなら、それも一つの価値観です。

FIREの計算は、正解を教えてくれるものではなく、自分が何を大切にしているのかを映し出す鏡とも言えます。

以下のように、他にも様々な状況が考えられます。

ポイント

  • 昇進して年収が上がる代わりに残業が増えるなら、その選択は本当に自分の幸せにつながるのか。
  • 転職して年収が少し下がっても、ストレスが大幅に減るなら、その選択は資産以上の価値があるのではないか。
  • 子どもとの時間を優先するために時短勤務を選んだ場合、FIREが遅れても納得できるのか。
  • マイホームを購入するとFIREが5年遅れるとしたら、それでも家を買いたいと思うか。
  • 外食を減らして年間20万円節約できるとして、その我慢は自分にとって本当に必要なのか。
  • 毎月の生活費をあと5万円増やしたら、生活の満足度は本当に5万円分上がるのか。
  • FIREを達成したあと、自分は何をして毎日を過ごしたいのか。

FIREのシミュレーションをすると、こうした問いを自然と考えるようになります。

必要資産や引き出し率を計算すること自体が目的ではなく、その数字を通して自分の価値観と向き合うことに意味があるという考え方です。

無反省なFIREは危険かもしれない

一方で、著者は次のようにも述べています。

"Adopted without reflection, FIRE can be dangerous. And yet, 'the examined FIRE may be worth starting.'"

訳すと、

「何も考えずに始めたFIREは危険になり得る。しかし、十分に考え抜かれたFIREには始める価値がある。」

ではなぜ、何も考えずに始めたFIREは危険なのでしょうか。

論文では、いくつかのリスクが挙げられています。

例えば、お金を最優先するあまり、人間関係や健康、趣味を犠牲にしてしまうこと。

あるいは、早く会社を辞めることが目的になり、その後どんな人生を送りたいのかを考えないままゴールだけを追い続けてしまうことです。

さらに社会全体で見れば、極端な個人主義が広がることで、年金制度などの社会的な仕組みに影響を与える可能性についても触れられています。

私自身も、考え方が変わってきた

以前の私は、40歳までに1億円、来年までに年間配当金○万円といった数字ばかりを追いかけていました。

もちろん、その目標があったからこそ資産形成を続けられた面もあります。

しかし、資産が増えてくるにつれて、FIREした後に何をしたいのかという問いを考える時間が増えてきています。

仕事を完全に辞めたいのか。家族との時間を増やしたいのか。

好きなことを仕事にしたいのか。世界を旅行したいのか。

数字だけでは答えが出ない問いが、次々と出てきています。

FIREの計算は、自己理解の入り口

FIREシミュレーションは、必要資産を知るためだけのものではありません。

むしろ、自分自身を知るためのツールとして活用できるのではないでしょうか。

例えば、

ポイント

  • FIRE(経済的自立)を達成するために必要な資産額を計算してみる。
  • なぜその生活水準を望むのかを書き出してみる。
  • リタイア後にどんな一日、どんな一週間、どんな一か月を送りたいのか想像してみる。
  • 半年や一年ごとに、その価値観が変わっていないか振り返る。

こうした作業を繰り返すことで、FIREが、節約ゲームではなく、自分らしい人生を設計するための手段になっていくでしょう。

まとめ

FIREというと、節約、投資、早期リタイアといった言葉ばかりが注目されます。

しかし、今回紹介した論文が伝えたかったのは、もっと根本的なことです。

FIREは、お金を増やすことそのものではなく、自分はどんな人生を送りたいのかを考えるきっかけになる。

そして、そのためには数字だけを見るのではなく、自分の価値観と向き合う時間が欠かせません。

論文の最後にある一文は、とても印象的でした。

"The examined FIRE may be worth starting."
「十分に考え抜かれたFIREには、始める価値がある。」

私もこの言葉に強く共感します。

FIREは、誰もが目指すべき正解ではありません。

ですが、自分にとって本当に大切なものを見つめ直すきっかけとしては、とても価値のある考え方だと思います。

これからFIREを目指す方も、すでに資産形成を続けている方も、一度なぜFIREを目指すのかという原点に立ち返ってみると、新しい発見があるかもしれません。

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私は、45歳でのFIREを目指してこれからもひた走ります。

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この原則を信条とし、着実に資産形成を続けていきます。

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